木の実と角とわたしの旅④

 

 

うい「んーオフ会でもする?」

 

意外にも切り出したのはうい君が切り出したのだ。

めちゃくちゃに緊張というか焦りというかパニックというか心臓がドクドクドクドクなったのを覚えている。

 

私は生まれつき環境の変化に弱い。「みんなそうやろ」とツッコミが聞こえてきそうだが、かなりの重症だと思う。人前にたつと手足が震える。立っているのがやっと、なんていうのは当然で、小学生の低学年までは環境が変わるとご飯もまともに食べられなかった。だから家族と外食に出掛けても一口くらいしか食べられなかった。旅行に行くときなんて行く前の日から嘔吐したりした。私は異常な舞い上がり症なのだ。

 

厳しい両親だったので「○○してほしい!」や「○○買って!」とわがままを言ったことはなかった。どうせ通用しないと子供ながらにわかっていた。ただ一度だけわがままというかお願いをしたことがある。小4の頃「野球がしたい」すんなりやらせてくれた。意外だった。野球クラブに入ると土日は試合であちこち出掛けるようになった。昼はおにぎりという決まりだった。半年くらい経つと、外でもなんとか食べられるようになった。慣れというのは怖い。ただ本当にあそこ(野球を始めた)が人生のターニングポイントだったと思う。食事に関してだけでなく性格や生き方含めて大きく変わった。もし自分が野球をやってなかったら...言葉で表現するのが難しい。とにかく今の私とは180度とは言わないが140度は違った人間だったであろう。「迷ったらやった方がいい、迷ったらYESだ!」というような言葉は聞きなれ過ぎてもはや言ってる奴が恥ずかしく見えてくるが、心の底から実感している。この辺の私の過去とか生い立ちとかも機会があればいずれ書きたいなと思う。

 

ただ、今も外に食事に行くときは緊張はする。友人と食事に行くときも「何を話そうか」とか「どんな人だろう」とかそういう緊張ももちろんするが、それに加えて「食べきれるかな、残すとなに思われるだろう」「恥ずかしいマナーを見せていないかな」そういう心配から生まれる緊張は今もしている。家族と食事に行くときでさえも同じような緊張をしている。綺麗に食べなくてはいけない。残してはいけないというのは変わらないから。

 

話は戻って、うい君の提案の後一瞬で様々頭を巡らせた。「どこいくのよ」「三人で?」「なに話すん」「顔見せるんかー」「てかそもそもネットで知り合った人間の会っていいの?」「どこで寝るん」「気まずいか?」「ぜってーポリめんどいじゃん」「飯どうするんだろ」「初対面緊張するわ」などなど

 

考えなくてもいいことまで考えてしまうのが私の悪いところだ。そのせいでしなくていい緊張までしてしまう。分かっていても考えてしまう。もう治らないという諦めもついている。 

 

今考え直すと。絶対楽しいのだ。行く前から決まっている。県外に遊びに行く。知らないところに行く。観光。なにより普段リアルでは深く話せないポケモンやゲームという共通の趣味を持った人間と遊ぶなんて楽しくないわけがないのだ。行く前から楽しいなんてのは確定事項だった。

ただその時の私は心臓がドクドクドクドクしているわけでネガティブなことばかり考えていた。冷静じゃなかった。とにかく、なんと言っていいか分からないので提案に対する答えは一旦角助の反応を見てだそうと思った。今は文章としてつらつら書いてあるが、当時は会話な訳でうい君の提案から2~3秒ほどしか経っていない。

 

しかし、こういうときの角助は役に立たない。

 

普段はベラベラと話すくせにこういう時のレスポンスは抜群に遅い。迷ったが

「いいねぇ~どこにする?普通に東京行きたいわ」と私は答えた。

「あ、やる?東京にすっかー」とうい君も答える。

そのあと角助が口を開いたが、なんと言ったかは覚えていない。ただ声が少し動揺のは覚えている。

 

集まるという方向であれやこれやと話していると角助が東京まで行くのは金銭的に厳しいということがわかった。当時彼は高校生、アルバイトもできないので仕方ない。ただ春から角助が関西圏の東進に通うということなので、角助の家から比較的近い京都を旅目的地にすることにした。

 

日程や目的地、何をするかなどはうい君が私と角助の予定や何をしたいかなどを聞きながら決めてくれた。意外とというと失礼だが、やるときはやる男なのだ。私や角助の交通手段まで一緒に調べてくれた。優しい。

彼のお陰でこの旅行は成功していると断言できる。

 

旅行の粗方の予定が決まる頃には朝の8時前すっかりどころではない程に日が昇っていた。

結局その日は4時半相応のボリュームから角助の声のボリュームは一度も上がることなく、下がり続けた。

流石にその日は私も疲れたのですぐ寝た。起きると外が真っ暗で絶望したことを鮮明に覚えている。