木の実と角とわたしの旅⑤

 

 

旅行の計画を立てたのが3月10日、旅行の日程は26日に決まった。個人的にあるあるなのだが、こういう先の日程を決めると、それまでの期間その相手とはお話をすることがなくなる。私からだけでなく相手からもだ。今回の場合も二週間ほど空きの期間があったわけだが、この期間うい君や角助と話すことは0とは言わないが、明らかに減った。あれはなんなのだろう。話溜めとこうというなんていう考えが潜在的に働くのだろうか。

とにかく26日  昼  京都集合ということだけしか決まらないままその日を迎えた。

 

そして26日黄色のスーツケースに三日分の服と3DSだけ詰めて家を出る。博多までは行き慣れたものであるが、新幹線とはなると話は別だ。駅員に助けてもらってなんとか乗り場までたどり着けた。博多が始発だったので出発の15分前くらいには新幹線が来た。隣に人が座ることはなかったが、後ろの席におじさんとおばさん。おばさんは特になにもなかったが、おじさんがそわそわしていた。「うわぁ...クレイジーな人かな...」全員感じたことがあるだろう。電車に乗ったときアレの人が乗ってきたときの緊張感。発車するとそのおじさんは我慢できなかったのか

「おおぅ、はやいな!新幹線は!今の新幹線は速いな!」

私は寝ることを決意した。絡まれたくない。寝れないにしても寝たふりはマストだ。ただ後ろはクレイジー、リクライニングなんてもっての他、「眠れないなぁ。眠れないなぁ」と上手い寝る形を作るためボソボソと動くが、直角の私は結局眠ることはできなかった。幸いおじさんに大きな動きはなかった。ちょこちょこ角助から来るDMに返信していると京都駅についた。博多から3時間もかかっていない。つい心のなかで思ってしまった。

「おおぅ、速いな!新幹線は!」

 

移動中三人のグループでやり取りしているわけだが、うい君が全然出てこない。角助と私二人だけで「飯食った?」何て会話をしていた。寝坊したのかと心配したがそうではなかった。

「頭痛薬飲むために飯食った」

当時は本当に焦った。最初はやっぱりうい君の心配だ。「とりあえず休みたい」うい君が京都についたときのDMだ。どうやら結構な頭痛らしい。京都に降り立ってとりあえず休みたい奴なんて相当具合悪い奴しかいない。普通はみんなはやく清水に行きたいのだ。その感情さえも抑え込む程の頭痛。もしぶっ倒れたらどうしようか、本名も知らないわけだし、もし何かあると大変なこと、ややこしいことになるのでは?何て思っていた。

二つ目は仮にうい君がリタイアした際のこの旅行だ。申し訳ないが、角助との2人旅は正気の沙汰ではない。もしそうなった場合、私も原因不明の激しい頭痛に襲われるだろう。

 

「とりあえず休みたい」からうい君の返信が途切れたため、とりあえず角助と私で待ち合わせることに、「黄色いスーツケースで来てるから探してみて!目立つと思う!」と連絡する私に対し、「あ、俺ポリゴンのぬいぐるみ持ってるから」とコントのように答える角助。

やめてくれ。京都駅でポリゴンぬいぐるみを持ちながらうろうろしないでくれ。春の京都は人でごった返していた。とにかく探さねばとキョロキョロしていると、青年の視線を感じる。確認できないが手には赤と青のなにかを持っている。

 

あ、あれだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 

青年もこちらに気づいたらしく、歩み寄ってきた。「ポリゴンです。」

期待はずれというとは失礼だが、ぬいぐるみ持っていること以外普通の好青年だった。

「にはたです。シザリガーです。」

私の方が圧倒的に緊張していたのではなかろうか。しばらく間が空いた後「ならうい君探しに行こうか」と私がいうと「う、うん」と角助は答えた。やっぱり角助の方が緊張していた。

 

ありがたいことにその会話の後すぐうい君から返信が来た。もし返信がなかった場合、角助との二人の時間がただ流れていくことになる。ゾッとする。

「ベンチで寝てる。風当たって大分楽になったから、新幹線改札口で会おう。」

そんな返信だったと思う。角助と「あいつやべぇな」とか二人で笑いながらうい君のもとへ向かった。

 

それからしばらくしてうい君とも待ち合わせた。うい君も普通だった。というより恐らくみんな普通なのだ。ただTwitterというフィルターを通して普段私がリアルで接している人とは少し違った人というようなずれた認識をしていただけのようだ。

なにより驚いたのがというよりムカついたのが、うい君がめちゃめちゃ元気なのだ。軽く挨拶をすませると、「じゃああそこバス乗場あるからあそこで~」「とりあえず清水でいい?」なんて無茶苦茶元気に仕切る。倒れたら...なんて無駄な心配で精神をすり減らしたが、とにかく無事でよかった。

 

三人の旅行が始まった。