木の実と角とわたしの旅⑦

 

Mr.Children。私が1番好きな歌手だ。中学一年生からのファンであるため10年ほど彼らの音楽に触れている。私が1番好きな曲は意外かもしれないが『名もなき詩』である。彼らの曲の中でもTOP5にはいるほど有名な曲ではあるが、何だかんだでこの曲が好きだ。彼らの9枚目のオリジナルアルバム『Q』はこれまで19枚出しているオリジナルアルバムの中でも異彩を放っている。ダーツで曲のテンポを決めたり、くじ引きでコードを決めたりと彼らの遊び心が盛り込まれたアルバムだ。またNOT FOUNDという桜井自身が最高傑作のひとつと語る曲も収録されており、ファンの中では人気の高いアルバムになっている。ただ私は最近までこのアルバム特有のクセがあまり得意ではなく、むしろ嫌いなアルバムだった。その『Q』の9曲目に『ロードムービー』という曲が収録されている、私も含め、多くのファンがただのアルバム曲としか捉えていなかった。ただ数年前のラジオで桜井はロードムービーが自身の作詞家人生での最高傑作と答えた。その日以降私を含めた多くのファンが『ロードムービー』を一気に評価し始めた。言葉の調味料は本当に恐ろしい。感じたものに対して自信を持つことは非常に難しいことだ。

 

 

 

 

京都高島屋についた。入ってからの印象は「すいてるな。」だった。これまでとんでもない人混みにまみれていたということもあるだろう。だがそれにしたってすいていた。京都のショッピング事情は詳しくないが、少なくとも同じポケモンセンターがある博多のAMUが圧倒していた。すぐにはポケモンセンターに行かなかったと思う。せっかくなので京都高島屋を一応ぐるっと見て回った。角助は大分クールダウンしていた。そしてついにポケモンセンターにつく。「おぉ!」とはならなかった。言い方は悪いが、「どこも一緒なんだな」というつまらない感想だ。ただポケモンセンターであることには変わりはないのでテンションが上がらないわけではない。しゃべるぬいぐるみや、ポケモンの生活を切り取ったちょっとしたジオラマ、誰が買うんだろうというようなシャツ。何だかんだ楽しい。うい君と私がポケモンカードを見ているといつの間にか角助がいない。探すと彼はぬいぐるみコーナーにいた。彼は葛藤していた。マッシブーンのぬいぐるみを買うかを。

 

そのぬいぐるみは顔ほどのの大きさで手足にはワイヤーが入っており、自由な角度で曲げられるそんな設計だった。人型に近いポケモンならではの設計だ。当時彼は高校三年生、バイトもしていないのでそのぬいぐるみひとつ買うのも大きな決断だろう。買ってあげても良かったが、うい君もいるしという小物全開の心の揺らぎが起きていた。ただ私ならそれは買わないなという確信はあった。よりによってなんでそれなん。とは思ったが、さすがに口に出すのはナンセンスなのでグッとこらえた。かなり時間がかかりそうだったので私とうい君はまたポケモンカードのコーナーに戻った。3パック以上買うとプロモカードが貰えるということで買っちゃおうかなんて話をしていると角助がポケモンセンターの袋をもってこちらに近づいてきた。取り出して嬉しそうに「ほら!」とマッシブーンを見せてくる。マッシブーンでなければ可愛かったが、マッシブーンだった。

とりあえずポケカは買うとして、京都限定のグッズをなにか買おうとしたが、結局ポケカ以外は買わなかった。最年少の角助が1番お金を使っていた。

 

その後地下にあるレストランが並んでいるところでなにを食べるか。なんて話していた。ラーメンを食べることにした。それなりに混雑していて、すぐには中に入れなかった。うい君、角助、私というように店の外にあるお待ちの席に一列で座った。三人とも正直へばっていて会話もあまりなかった。ひとつ印象的なのがなぜか角助がiPhoneの設定画面を開いていた。app storeの登録名が丸見えだった。そのとき私は角助の名前を知ってしまう。
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角助というキグルミのファスナーを下ろしてしまったのだ。中身は普通の人間だった。オードリー春日が春日を演じているように角助は角助を演じてくれていたのだ。春日の中身は普通の春日俊彰だ。それはわかっている。角助の中身も普通の人間だ。それもわかっていたが、突き付けられると寂しくもあった。

 

店員さんに招かれようやく順番が来た。普段は豚骨ラーメンしか食べない私は、その茶色のスープのラーメンに胸を躍らせた。曖昧な記憶だが、京ラーメンだったと思う。三人ともメニューの1番上にかいてある普通の京ラーメンを注文した。ラーメンということもありすぐに出てきた。「和」これに尽きるような味だったと思う。出汁がうまい。そこでうい君が「麺うまいな!」と言ったことを覚えている。そこから私は出汁より麺がうまく感じた。

ラーメンはめちゃくちゃにうまかった。ただ一杯900円くらいしたと思う。福岡、特に長浜系のラーメン店であればラーメン餃子ご飯までいける値段だ。その瞬間豚骨を食べた後の口のベタつきが何となく恋しくなった。

 

そしてついに角助の家へと向かう。バスと電車を乗り継いで、最寄りの駅まで着いた。そこからは当然歩いていくのだが、道中の風景はバシャバシャ写真を撮った。いつか使えると思ったが、さすがに使えない。10分ほど歩くと角助が「ここ曲がると」という。細い路地にはいってもう3分ほど歩くと「ここ」という。まさに学生の独り暮らしの家という感じだった。内装は非常にきれいで普通に良い部屋だった。3分もかからないところにコンビニがあるというので飲み物でも買いにいこうということになった。

 

その時角助が「お酒は買うなよ」とうるさく指摘してきた。当時彼は未成年でごみの日にそれを出すことが憚られたらしい。うい君も私もお酒飲みたいなど一言も言ってないのに口うるさく言ってくる。せっかくの3人の旅行、1人でも飲めない奴がいる時点で飲むことなんて考えてもいない。「わかった」といっても「買うな」と言ってくる。もはやキレていた。彼はなににキレていたのだろう。

 

周辺道路は人気は多いとは言えなかった。ただそんなことは男1人が住むにはなんの支障もない。コンビニに行く途中ひとつだけ信号機がある。車一台しか通れないほどの道路のくせして信号機が置いてあるのだ。そんな道路もちろん横断歩道は短い。夜ということもあり車もほとんど通っていない。そんな信号機歩行者は誰も守らない。ほとんどの人が無視していた。私もその例外ではない。

 

唯一守っていた男がいた。お酒買うなマンだ。信号無視をしている人間が偉くものを言える立場でもないので深く言及はしないが、あの短い横断歩道をみんなに見て貰いたい。罪を犯さざる得ない。

 

角助は本当にピュアで真面目な男だということを理解していただきたい。